かってボクシング・ファンは記録に対する拘りを強く持っていた。
連続防衛、最多KO、最短奪取、複数階級制覇・・・これらの記録が更新されるのは何年越しとか何十年越しということもあって、緊張してそのメモリアル・マッチ(になりそうな試合)を観ていたものだった。
しかし、近年はこの感覚が希薄になりつつある。
世界統括団体の4団体認可、強敵を避けるジムの方針、アマ出身者の最短記録狙いなど、テレビやマスコミと一体になって特定の選手を売り出すために抜け道を使ってでも記録を作るという意図がより露骨になって辟易する。
特に複数階級制覇や世界王座の最短奪取等はあまりにも露骨でウンザリさせられた。連続最多KO記録もそうだろう。あきべぇと比嘉が浜田さんの記録に並んだが、更新までには至らなかった。
あきべぇは亀田路線を踏襲するかの様に連続KOを伸ばしたが、さすがにタイ記録の15と更新の16度目は相手に拘った。
15戦目でバキロフを苦闘の末に仕留めたものの、日本王者である湯場への挑戦は90秒で潰えた。しかし、単なる記録更新のためのマッチメイクに背を向けて強敵相手に記録更新に挑んだ姿勢でファンの信頼を幾分かは取り戻したと思う。
比嘉はユース、OPBFを制覇し、13戦目で世界奪取。14、15度目は防衛戦だったので記録更新に挑む資格は十分に要していた。それが肝心の記録更新がかかった防衛戦で計量失格の味噌が付いてしまった。そんな試合で仮に記録が更新されても割り切りが付かないだろうし、比嘉本人も納得しなかっただろう。
金井アキノリや別府優樹等は14で記録が止まった。
いずれも内容的には地方でタイ人の占める割合が大きかったわけだが、最多タイとなる15度目は二人とも相手に拘ったのはボクサーの矜持だろう。金井は日本王者の榎に挑んで敗れ、別府はチャーリーと引き分けた。
世界王座の連続防衛記録はさらに更新に困難を極める。
リアルタイムでは新興階級ゆえの層の薄さで一部対戦相手の質に疑義が呈されていた感もあったが、やはり具志堅の13度防衛は偉業であろう。
近年、この王座に迫ったのは内山と山中の二人だった。
しかし、内山は伏兵コラレスに敗れ、山中もルイス・ネリにストップされた。山中に関しては大和トレーナーのストップのタイミングやネリの薬物陽性等のエクスキューズがあるものの、やはり具志堅の記録更新は鬼門と言わざるをえない。
対戦相手を吟味すれば更新出来てしまう記録が多い中、浜田さんと具志堅会長が創りあげた記録だけは聖域であって欲しい。
記録は破られるためにあるかも知れないが、破る人選は厳しく見定めて欲しいとボクシングの神様にお願いしたい。